シミ抜き歴23年の職人が教える、自宅シミ抜きの嘘・本当
別の記事では衣類のシミに関しての基礎知識と気を付けるべき事を解説しました。
今回はネットやSNSですぐに手に入る汚れの落とし方やシミ抜きの情報は本当なのか?プロ目線ではどう映るのか。
スワローチェーンが誇るシミ抜き歴23年のベテラン職人にインタビューしてみました。
目次
- 1.クリーニングに出さなくてもシミは落とせる?
- 2.タンパク質や水溶性の汚れの落とし方「酸素系漂白剤を使って洗濯」は本当?
- 3.不溶性のシミの落とし方「洗濯用石鹸を使って洗濯」は本当?
- 4.動画で紹介されてるシミの落とし方って本当?
- 5.自分でシミ抜きをやろうとする方に一言
クリーニングに出さなくてもシミは落とせる?
筆者:ネットで調べたら「〇〇を使った衣類のシミの落とし方」的な記事やショート動画が山ほど出てきますね。
しみ抜き職人(以下職人):急にどうしました?
筆者:自分の洋服についたシミの落とし方を調べてるんです。正直、クリーニング屋に出すとお金がかかるし、シミも汚れも自分で落せるなら落としたいです。なので裏ワザを教えてください。
職人:お客様よりも正直ですね!
裏ワザ、といっても簡単なものでは無いですよ。それにネットにあるシミの落とし方をウカツに真似すると失敗する可能性がありますので、とりあえずそのネットの情報を見せてください。
筆者:ありがとうございます!どうぞ!
タンパク質や水溶性の汚れの落とし方「酸素系漂白剤を使って洗濯」は本当?(ネットの情報)
筆者:酸素系漂白剤といえばワ〇ドハイターが思いつきますが、そもそもタンパク質汚れや水溶性汚れってなんでしたっけ?
職人:タンパク質汚れは垢や皮脂やくしゃみの飛沫といった身体から出るものが中心で、他にはステーキの肉汁などの食べこぼしなども入ります。
水溶性汚れは汗やジュースやワインやスポーツドリンクなど、水に溶けるものですね。
筆者:それが一通り酸素系漂白剤で落とせるなら凄いですよね。これって本当ですか?
職人:注意点が2つありますが、概ね合っています。酸素系漂白剤に含まれる過酸化水素はタンパク質と反応して汚れが落とせます。それに水洗いが出来るものであれば、白物から色物、また綿・麻・化学繊維などの多くの繊維の汚れを落とす効果がありますね。
筆者:汚れの落とし方としては身近で試しやすいですが、その2つの注意点って何ですか?
職人:まずひとつ目が、汚れが付着して時間が経っていない事が大切です。
汚れが付いてすぐであれば落ちるかもしれません。しかし時間が経過した物は汚れが繊維の奥に浸透したり、酸化してしまったりなどの理由で落せない場合があります。
筆者:なるべく早く洗いましょう、という事ですね。もう一つはなんですか?
職人:ふたつ目は、先ほども言いましたが水で洗える衣類に限ります。
綿のTシャツなどは問題ありませんが、毛・絹のような水に弱いデリケートな素材だと、シミや汚れを落としたとしても繊維がダメージを受けてしまいます。
分かりやすい例だと、食べこぼしが付いたウールのセーターを酸素系漂白剤を使って洗ったとします。汚れは落ちるかもしれませんが、セーターが縮んで着られなくなったら意味ないですよね?
筆者:なるほど、たしかに…!
職人:素材と洗剤の相性が良くても水との相性が悪ければ、当然家庭洗いで落とす事は難しいです。
不溶性の汚れの落とし方「洗濯用石鹸を使って洗濯」は本当?
筆者:洗濯用石鹸…?
職人:洗濯用石鹸はドラッグストアでもよく売ってますね。不溶性の汚れというのは泥とか墨汁などですね。
筆者:泥汚れって石鹸で落ちますか?
職人:薄手の洋服であれば落とせるかもしれません。
筆者:どうして薄手限定なんですか?
職人:そもそも泥などの不溶性の汚れというのは、水や油に溶けない非常に細かい粒子なんです。泥汚れは粒子が大量に服の繊維に入り込んでいる状態です。
石鹸は繊維から粒子が滑って取れるようにする潤滑材の役割です。
なので、潤滑材があっても簡単に取れないほど奥深くに潜り込んだ粒子には効果が薄くなります。なので薄手の洋服の方が厚手の物と比べて効果的なんです。
筆者:そんな!僕の泥がついた厚手のパーカーはどうすればいいんですか!?
職人:(急に個人的な質問になった…!)
汚れの種類に関係無く、厚手の衣類の奥深くに浸透した汚れは、家庭用洗濯機の水流では力不足で落とせない場合が多いです。
筆者:水流の力不足…そんなのどうすれば…!?
職人:それこそ、クリーニング業が扱うような業務用のパワフルな洗濯機に頼るといいでしょう。
筆者:これがクリーニング店の汚れ落ちの裏ワザ(機材)…!
動画で紹介されてるシミの落とし方って本当?
筆者:この動画に載ってるシミの落とし方ってどうですか?(TikTokの「染み抜き おすすめ」の検索結果の動画を見せる)
職人:まじまじ(これがあのTikTok…!)
筆者:重曹とワイ〇ハイターと食器洗剤を混ぜたものを洋服のシミにたたいてから洗濯してます。
職人:このやり方は食べ残しや飲み残しとか、ちょっとした黄変なら落とせそうですね。
ですが…これは別の意味で危険ですね…!
筆者:まさしく裏ワザ的な情報ですが危険なんですか?
職人:簡単そうに見えすぎている感じですね。
例えば繊維の種類や色によっては色抜けや毛羽立ちのリスクがあるという説明がごっそり抜け落ちています。
この動画だけ見た人がなんでもかんでも洗って失敗するケースが多発しそうで恐ろしいですね。
筆者:見る人の大抵は洗濯のプロではないので、細かいリスクまで考える事は少ないかもしれませんね…。
自分でシミ抜きをやろうとする方にメッセージ
職人:今から大切な事を言います。
シミ抜きを正しく行うには、繊維の特性・洗剤の特性・汚れの特性の3つを見極めて判断する力が必要なんです。
この汚れはこの洗剤で落とせるか、この洗剤に衣服の素材は耐えられるのか…など。
それらのバランスを見極めて、洋服の風合いを損ねず最大限シミや汚れを落とすのがプロの仕事なんです。
もし自分でシミ抜きをする場合は、しっかり勉強してくれぐれも慎重にやっていただければと思います。
筆者:簡単に手に入る情報や短い動画は簡単そうに見えるけど、知識や経験則無しに取り入れるのも危険なんですね。
職人:自分でシミ抜きを実践して失敗して駆け込んでくるお客様が非常に多いです。中にはすでに風合いや色が変わってしまっている物もあって、正直そういうお品物の処理は本当に大変です。
シミ抜きに失敗して洋服を買い替えると、シミ抜き料金よりもずっと高くつきますからね。
少しでも心配だったり面倒だと感じるのであれば、すぐにプロに頼ってください。
筆者:私のように調べ事が面倒な人はすぐに頼った方がいいですね。これからもよろしくお願いします。
職人:君はもう少し調べる癖をつけようね?